金曜日のホロヴィッツ「言語の壁」

私たちは日本人です。残念ながら極東です。別に残念ではないかもしれませんが、ともかく日本人で極東に住んでいるのです。日本にいると、英語やヨーロッパの諸言語から離れていて、耳にする機会も、話をする機会も少ないです。この点については西欧の文化に関わる人間としていつも残念だと思っています。

英語ができるか、ドイツ語が出来るか、フランス語ができるか。もちろん、言語を話せるだけでは意味がありませんけれども、いろいろな言語を使いながら音楽家たちと会話をしてみたいものだと常々思います。じゃ勉強しろよ。はい終了。

ヨーロッパではいろいろな言語が入り乱れていますよね。先日もあるイタリア人のオペラ指揮者と話をしていたのですが、イタリア語のオペラを理解するにはイタリア語について通暁していないと行けない、と断言していました。

ある単語の一般的な意味だけではなく、そこに含まれるさまざまな意味合い、語源なども知っていなければ正確なニュアンスは表現できない、と言っていたのですが、いやはや実にそのとおりなんだろうな、イタリア語を全く理解しない自分には、イタリアオペラの理解者にはなれないのだろうと思いました。その人は、自分はフランス語は非常によくできる、ロシア語も少々、ドイツ語はいまいち、だからドイツ語のオペラはうまく振れないだろうなでもリヒャルト・シュトラウスは振りたい、と言っていました。

私などイタリア語だけでなく、フランス語ドイツ語、いずれの言語もできないわけだから、諸言語のオペラもついに理解できることがないのではないか、と絶望したのです。なんせどの言語も、挨拶、あるいはここにはかけない汚い単語をいくつか、程度しか知らないから。(まあそこまで悲観的になることもなかろうとも思いますが。)

そこでホロヴィッツです。無理にホロヴィッツにつなげておりますので、ここから下は上の前振りはすべて忘れてお読みいただいてよいです。

ホロヴィッツはスクリャービンの勧めなどもあって子供の頃からオペラとかを見まくっていたそうです。ホロヴィッツはウクライナ人ですが、アメリカが長く、映像でも英語で話しているのを見る機会が多いですが、妻のワンダはイタリア人なので、きっとイタリア語も少しはわかったでしょうし、フランス語で会話をしていたとも書かれることもあります。つまりホロヴィッツは、ウクライナ語、ロシア語、英語、フランス語、そしてイタリア語を、少なくとも話したのです。そして先日知ったのですが、ドイツ語も理解していたようなのです。

このインタビューをご覧ください。晩年のホロヴィッツが、ドイツで、ドイツ語で!インタビューを受けている。話すのは得意ではないらしく、質問にはほぼ英語で回答していますが(そもそも滑舌がよろしくないので何語を話しているのか聞き取りが難しいという噂)、ドイツ語も飛び出している。そうかホロヴィッツはドイツ語も理解できるのか・・・。ていうか質問する人がドイツ語で話ホロヴィッツが英語で返すっていうのもわりとシュール。

そう、ホロヴィッツは、ドイツ語も解する。われわれ下々の人間がホロヴィッツに永久に追いつけない理由が、ここにも一つありました。