結局のところアンコールは何曲が妥当なのか

先日あるイタリア人ピアニストとタクシーの中で話をしていまして、アンコールの話題になりました。アンコールとは何なのか、一体何曲弾くのが妥当なのか。自分はどうしているか、など。

奇妙なアンコール、という事でその人が例に出したのは、自分の生徒のコンサートだ、というのです。どういうアンコールだったかと言うと、全曲が終わったあとにそのピアニストは、ショパンエチュードを2曲!と叫んで演奏したそうです。

うむ、2曲まとめてエチュードを弾くアンコールとか、面白いな、と思ったらその続きがあって、2曲弾いたあと、袖に引っ込んだら拍手が止んだ。それで終わりだと思って聴衆が帰り始めたところ、そのピアニストはまた舞台上に出てきて、ショパンエチュードを2曲!とまた叫んで違う2曲を弾き始めたそうです。

うわこれは引く。会場のテンションもあがりませんね、これでは。アンコールの押し付け。しかも2曲セットで、というのはなんとも形容しがたい。そりゃショパンエチュードは2曲でも、曲によっては5分に満たないけれど、そういう問題ではないですよね。アンコールは求められて初めて演奏されるべきもの。このピアニストの場合は、最初から「弾く」と決めていたに違いない。

こういうピアニストはだめです。大成しません。かつて個人的にも、ある女性ウクライナ人ピアニストがオーケストラをバックに演奏したあと、5曲アンコールを弾いた現場にいたことがありますが、あのときのオケの表情といったらなかったですよ。怒り、呆れ、失笑、ああまた弾いた、というそういう負の感情が渦巻いていました。

結局そのピアニストは、政治的に非礼な発言を繰り返した挙げ句、コンサートの表舞台から消えていきました。日本ではもう忘れられているけど、と言うと、ヨーロッパでももう見ないように思う、とのこと。

オーケストラと協奏曲を弾いたあとに自分を誇示するためにアンコールを連発するのはオーケストラをないがしろにする行為で、絶対にだめ。オーケストラはあなたの伴奏者ではない。そもそも10年ぐらい前はオーケストラとの共演のあとにアンコールというのはほとんどなかったように思う、これは最近の風潮だ、とも語っていました。

「聴衆から求められれば、そしてオーケストラがOKすればもちろん自分だって弾きますけれどね。でもオーケストラとの協奏曲のあとのアンコールはせいぜい1曲だろう」と。何曲も弾くとオーケストラを待ちぼうけさせることになるし、アンコールを連発するとオケ以外の関係者も全員、舞台さんとかも含めて時間を奪っていくことになる、それは正しいことではないと思う。とのコメント。素晴らしいコメントではありませんか。

「リサイタルでも2曲か3曲かな。」まあ普通そうですよね。イタリア協奏曲全部、とか、ゴルドベルク全部、とかそういうアンコールがありますけれども、それは両刃の剣ですよね。うわー始まったー、と思われるか、やったラッキー!!と思われるか。でも近年の風潮としては、前者の反応が多いのではないかと思います。ソコロフとかユジャ・ワンとかの熱狂的なファンを除いて。

そういうわけでリヒテルのアンコールどうぞ。

ベートーヴェンのハンマークラヴィーアの終楽章!!まじかよ!!こんな難しい曲アンコールでよくやるわ的な。後にレコードをリリースすべくライブ録音をしていて、本番でうまく行かなかったからもう一回アンコールに弾いた、というケースかも知れません。なお、お客さん熱狂してます。