話題のZOZO前澤氏、ストラディヴァリウスを買う

ピアノを専門にしていてつくづくよかった、と思うときがあります。それがこういうニュースを目にする時です。

ZOZOTOWN前澤社長、10億円でストラディヴァリウス購入 自身のSNSで公開
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1981186.html (痛いニュース)

ピアノはこういうことがそもそも話題にならない。なぜならピアノは安いから(安いから・・・・涙目)。

このニュースをネガティブにとらえている人、それを面白がって遠巻きに眺めている人も多そうですけれど、このニュースだけで前澤氏を非難するのは脊髄反射的すぎる。これだけでは判断できない。お金持ちが高いもの買って何が悪い。

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I purchased Stradivari 1717 Violin “Hamma”. Like Basquiat painting, I would like to make it travel around the world to send its strong and delicate sound to children in every region and country it visits under cooperation from local musicians. #stradivarius #stradivari Sorry for my terrible first violin playing… — ‪1717年製のストラディヴァリウス「Hamma(ハンマ)」を買いました(8月12日の投稿のType 3がそれです)。バスキアと同じように、世界中を旅させ、現地音楽家の協力のもと、その地域や国々の子供たちの耳にその力強くも繊細な奇跡の音色を届けたいと思います。 #ストラディバリウス 初めてのヴァイオリン演奏に挑戦してみました笑。

Yusaku Maezawa (MZ)さん(@yusaku2020)がシェアした投稿 –

わからない人が買ったら猫に小判とか、だめになるとか騒いでいる人がいますけれど、多分保守管理費用込みで買ったんじゃないかなあ。あいつが買ってだめになったとか言われたらそっちの方が問題だと思いますし、将来的には売ることもあり得るんだから、そのときに価値があほみたいに下がってたら前澤さんだっていやでしょう。むしろ上がってないと。

売った方もそこまで無責任には売らないと思うんですよね。インスタには「世界中を旅させる」とか書いてあるけど、売る側からも温度湿度管理それなりにきっちりしてほしいとか、ちゃんと定期的に、そこそこ弾けるレベルの人の手で演奏させてあげてほしいとか、そういう細かいリクエストとか指示とかも込みで売ってると思うんだけど。そんなことないかな。

それに、そこまでウルトラ厳密に管理しなくても大丈夫ですしね。ストラド持ち歩いてる演奏家何人も会ってますけど、みんなけっこう扱いが適当で、こんなんでいいのというぐらいけっこう雑です。適当とか言ったら怒られそうだけど、壊れ物を扱うようにそうっとそうっと扱って、「あ、湿度が上がった、下げて下げて大変!」なんてやるバカはいません。(もちろん炎天下の直射日光のもとでは弾かないでしょうけど。)

そもそもストラドは何十年も前から高騰しすぎて一般人や音楽家の手の届かないところにあるので、こうやってお金持ちの個人とか企業とか財団とかが買って、それを演奏家に貸与して演奏してもらうという手法が取られるケースも多いんですよ。

音楽に詳しくなくても、世のためになにかしたい、と思って買っているお金持ちもいる。前澤さんも多分その部類でしょう。ストラドをおもちゃのように扱って、ぶっ壊れたら、あーあ、ハハハ、でおしまいにするためではなく、保全し、長く使えるために買ったと思う。もちろん将来的に価値が高くなることを期待しつつ。ストラドはもう寿命を迎えると言っている人と、まだまだ大丈夫という人がいるので、今後そう劇的に値下がりすることもないでしょう。たぶんもっと高くなっていく。

ちなみにストラドをいっぱい持っている世界的に有名なの団体の一つに日本音楽財団があります。ストラドをめちゃくちゃ持ってて、それを世界中の天才たちに貸している。

日本音楽財団
https://www.nmf.or.jp/

ここのこのページに
https://www.nmf.or.jp/biz/conservation.html

以下のようなことが書いてある。これは日本音楽財団が楽器を長期で貸与している演奏家に対して義務付けている条件です。

1.3ヶ月に1回、名器の取扱に習熟している当財団指定の楽器商で楽器のコンディション・チェックを受けるよう貸与者に義務付けています。
2.内1回は、当財団の楽器アドバイザーであるアンドリュー・ヒル氏によるコンディション・チェックを貸与者に義務付けています。年に1回、同じ目でチェックすることで、楽器の状態を管理しています。
3.指定楽器商からは、楽器の状態や修理内容に関しての報告と請求書が直接届き、記録として保管しています。
4.貸与者には日常の楽器取り扱いに関する注意事項を文書で徹底するとともに、紛争地域や楽器に悪影響を与える高温多湿な地域への楽器の持込みを禁止しています。
5.コンディション・チェックで貸与者の楽器取扱いに問題が確認された場合には、楽器保全の観点から貸与契約を打ち切ることがあります。

さすがにここまで厳しくはないにしても、前澤さんもちゃんといろんなアドバイスとかもらってるんじゃないかな。楽器商がとんでもないクズでない限り。

この点ピアノはいいですなあ。なぜならピアノはたったの2千万円ぐらいで今世界最高と言われる楽器が買えるから。(スタインウェイが3000万ぐらいに値上がりする的な噂もありますが)ヴァイオリンと比較したらずっと安い。世界最高レベルの楽器がたったの2000万!もってけドロボー!・・・いや、ほとんどの人は買えない、というのはいっしょですけど。

現代のピアノは工業製品といいますか、ヴァイオリンよりも巨大で複雑で、鉄のフレームとか使ってますし、完全ハンドメイドのヴァイオリンとはまるきり性質が違うわけです。もちろんピアノにも古い楽器はあって、ショパンが使った楽器だとかワーグナーのピアノとかありますけれど、そういう楽器は現代のコンサートシーンで求められるものかというと、あまり求められていないというのが現状。

ピアノはヴァイオリンみたいに持ち運びが軽々しくできないし、世の中のコンサートホールにある楽器は基本的に良い楽器で、特定の1つ2つの楽器に対して強烈な価値が生まれることもないのであります。