ユジャ・ワン、インターミュジカに移籍

ニッチだな、とタイトルを書きながら思いました。

ジャニーズのことは日本人なら大抵の人は知っていると思いますが、クラシックの音楽事務所の事はあまりにもニッチ。別に知ってて得することなんてないですし、せいぜい、あ、事情通ですね、と言われ、いやいやそれほどでも、とほんの少しだけ自尊心がくすぐられる程度。

でもね、いろんな業界が世の中にあるけれど、どこだって表に出てこない裏方さんがたくさんいるんですよね。クラシック音楽だって同じ、表に出てこない縁の下の力持ちたちの偉大な仕事のおかげでスターも輝くことができるんですよ。皆様に支えられての、スターです。スターがスターとして輝けるのは裏方のおかげ。なんていうと偉そうですねすいません。

というわけで、ユジャ・ワンがインターミュジカという大手の事務所に移籍することが決まったそうです。もともといたのはフィデリオという小さな会社。

Intermusicaのユジャ・ワン移籍のニュース:
https://www.intermusica.co.uk/artist/Yuja-Wang/news

ピアニストにとって事務所は大事です。大きな事務所に所属し、その後押しで一気にスターに登っていく人もいるし、小さな事務所にいながらじわじわと時間をかけて名声を高めていくタイプもいる。有名になれば事務所を次々と代えてステップアップしていく人もいれば、有名になっても小さな事務所にとどまり続ける人もいる。それは結局本人が決めることなのです。

この考え方はなかなか理解しづらいですけれど、アーティストは事務所に雇われているのではなく、アーティストが事務所を雇っている、と言うのが本来の姿です。もちろん、有名な事務所に所属アーティストとして名前を連ねることではじめて大きな仕事が来るようになった、という人もいて、そういう人の場合は事務所との関係、パワーバランスは微妙になりますが、ユジャ・ワンクラスになると事務所を雇うという形が鮮明です。

どういうことか。大きな仕事、重要な仕事をとってくる、高いギャラの仕事をとってくる。これが事務所の仕事であり、アーティストは自分で売り込みをするとか契約書作るとか飛行機取るとか、そういう面倒な手間を省くために事務所を雇っているのです。だからこそアーティストはコンサートで得るギャラの一部を事務所に払っているわけです。(例外的に、著名人でも事務所にお金を払いたくない、という人ももちろんいて、そういう人は全部自分とか奥さんとかがやります。)

またスケジュールを管理する、公演がバッティングすることがないように管理することも事務所の大事な仕事。公演数が多いのは大切だが露出過多になってもチケットは売れないかもしれない。もっときてほしい!もっとコンサートしてほしい!と思われるぐらいの感覚も必要。「あーあの人こないだもここ来て弾いてたよね、また来るだろうから今回はやめとこ」とか思われたら失敗なわけです。そのへんのバランスを取ってどの仕事を入れてどれを断るのかそれも事務所の仕事です。もっとも、断るぐらいオファーが来るレベルの人はかなり数が絞られますがね。

あ、それと事務所的には全く意味ないと判断するような仕事でも、本人の希望で受ける仕事もあります。そのへんの意思疎通も大事なんですよね。

そういったことを安心して任せられると思う事務所、もしくはその事務所の中の特定の「人」をアーティストが雇うというのが構図なのです。なので気に入らなかったらアーティスト側は事務所を切る。冷酷に見えますがそういうこと、あります。お互いにウィン・ウィンでなければなりませんしね。事務所との信頼関係があってこそ、スターも音楽に集中できる。そしてその反対に、事務所側に見限られて切られるアーティストもいます。

ユジャ・ワンのクラスだと、あくまで推測ですけど、もっと大きな仕事がほしいとか高いギャラが欲しいとかではなく、事務所との信頼関係の問題、仕事のしやすさとかが移籍のメインの理由ではないかと思います。いろんな噂話が飛び交っているみたいですが、たぶん、事務所とゴタゴタしたのではないかな?

その前提で話すなら、いっぺん対立してしまうと小さな事務所だと修復が難しいけれど、大手なら会社全体でケアができるかも、という点は強みですかね。「そっか、そしたらマネージャー替えるね」とかそういうことも出来ますしね。

人して合う合わないって必ずありますし、その時その時でアーティストがマネージャーに求めることって変わり得ますし、ずっと二人三脚で、というわけにも行かない事だってある。