なぜプリペアド・ピアノは定着しないのか(しなかったのか)

プリペアド・ピアノはご存じでしょうか。ピアノの弦の部分にボルトやゴムなどの異物を挟んで音を変えてしまえ、というテクニック(?)の事です。

ジョン・ケージが発明し、そして実際素晴らしい音楽が作られましたし、とても面白いと思うのですが、結局定着していない。なぜ世の中にプリペアド(あるいはピアノの内部奏法)がもっとあふれないのでしょうか。

いろいろ理由はありますでしょうが、一番大きいのは現実的な理由でしょうね。無茶をしてピアノを痛める人が多数現れたからでしょう。コンサートホールにある大きなグランドピアノは2000万ぐらいする。そんな楽器をプリペアドだかプリペイドだか知らないけどそんな変な使い方されて一発で壊されたらたまったもんじゃない。壊れてもいい、っていうピアノを使うのならともかく、そんなピアノ持っている人なんてほとんどいないし。

ねもねも舎はどちらかと言うと、プリペアド・ピアノ推奨派です。なんといっても音がおもしろいですよね。でも・・・ピアノは傷めてはいけません。これは絶対です。ボルトを使うにしても、普通のボルトじゃ痛めちゃうんですよ、弦を。弦を傷めないボルトを使う必要があります。かつ、よく注意して準備しないといけません。

芸術のためならば何をやっても許される、と勘違いする一部暴徒のようなピアニスト、あるいは自称芸術家が、ピアノをぶち壊すのです。残念ですが、そのような悪辣な自称アーティストがピアノを壊しまくった(痛めまくった)結果、全世界的レベルで、プリペアド・ピアノは禁止されているのだと思います。

なので、かどうだか、前衛として長年突っ走ってきた世界的大スター演奏家であっても、プリペアドしたい時はかなり下から目線で、丁寧に丁寧に主催者にお願いをするのが普通です。俺有名、だからさせろと言った人には当たった事がありません。

かくかくしかじか、このような理由によりピアノをプリペアドをしたいです。使用する素材は◎◎で、こうやって使います。ピアノを傷めません。世界中のコンサートホールでこの曲を演奏してきており、実績があります、などという言葉を何度聞いたことか。ちゃんと書面を用意している人もいますよ。ありがとう、わかる、わかるよ。わかるんだけど、主催者がなんというか、ピアノの所有者がなんというか・・・。

主催者が現代音楽に理解を持つホールそのものであったりピアノ所有者であれば、話は進みやすいかもしれないが(それでもかなり困難ですが)、主催者がホールを借りて公演する場合は、さらにハードルは上がる。そう、出演者がどれほど有名だろうと、ピアノの所有者がそれはだめよと言ったらアウトなのです。そしてアウトだという人の気持も十分に理解できます。なぜかって?「壊されたら困る」から。

高尚な芸術のためならば何をしてもオッケーとか思っているような人を時折見かけますが、それは完全なる間違い。もうこれはひたすら、完全に、間違いです。相手の立場に立って考えるべきなのです。そんな人はいますぐに芸術家やめてください。

さらには、だめだと言われたけど、やっちゃえばこっちのもんよ、やっちゃえやっちゃえー!というとんでもなく最悪な人がまたいまして、これが最もいけない。そういう人たちの暴挙が回り回って自分たちの首を締めることになるのだ。「プリペアド・ピアノは絶対にお断り!」。ああ。

それで何事も起こらなければまだいいのですが(良くないけど)、そういう時に限ってなにかが起こるもんなんですよ。それに例えばピアノの弦を触ったらちゃんとクリーニングするなどしなければ弦が錆びる可能性もある。きちんと楽器の事を分かった調律師がそばにいて、現場ですぐに対応できること、これもまたプリペアドや内部奏法の条件でしょうか。

プリペアドをしたい皆さん、ルールは守りつつ、ともに道を切り開きましょうではありませんか。それではお昼寝の時間になりましたので、皆さんおやすみ。

ねもねも舎が寝ている間はジョン・ケージの協奏曲でも聴いてお楽しみ下さい。