ニューヨーク・タイムズ紙のホロヴィッツ追悼記事から(3)

このブログは、ニューヨーク・タイムズ紙に、著名評論家ハロルド・ショーンバーグが寄せた、ホロヴィッツ追悼の記事を見つけたねもねも舎舎員の手によって書かれています。その3回めです。ライターの思い入れたっぷりです。若干アルコールも入っています。

■ハロルド・ショーンバーグのオリジナルの記事は以下です(1989年11月12日付け)
http://www.nytimes.com/1989/11/12/arts/vladimir-horowitz-thunder-lightning-and-awe.html

ホロヴィッツがあまり練習熱心ではなかったことはわりと知られていると思います。昨日も触れた「ホロヴィッツの想い出」というドキュメンタリー映像で、ホロヴィッツの婦人であるワンダが語っているのですが、特に晩年のホロヴィッツは全然練習をしなかったそうです。15分ぐらい練習して、あーよく練習した、といっていたそうです。

・・・まったく、羨ましすぎて鼻血が出ます。

凡人の私達は練習を重ねに重ねて、なお弾けなくてへこむのですが、ホロヴィッツの場合にはそれは当てはまらない。

蛇足ながら、今回の日本ツアーで、全然弾けていなくてボコボコに叩かれてしまっているユンディも若いころは(今でも充分に若いですが)ものすごい才能があったらしく、本気を出せば一晩で知らないソナタ一曲を暗譜して弾けた・・・のだそうです(15年ぐらい前に聞いた話ですが)。

才能は浪費されると錆びてしまう、という現実を目の当たりにしているようで残念です。

ホロヴィッツも何度も引退しては復活しました。ユンディにも期待しましょう。いまとなってはおなじ中国人の若手ピアニストであるラン・ランやユジャ・ワンに完全に遅れを取ってしまっていますが、ユンディには彼らにはない才能があるようにも思います(ただし磨かれていないので曇ってしまっている)。

脱線しました。ホロヴィッツです。ホロヴィッツは練習をしなくてもピアノがひけたそうですが、でも代わりに何をしていたのでしょう。ユンディのように遊んではいなかったことは確かなようです。ショーンバーグが聞いたところによると、文学を読んだり、オペラの楽譜を読んだりしていたそうです。

そう、確かホロヴィッツは、スクリャービンだったか誰だったかに、ピアノの勉強だけじゃなく、オペラを勉強しなさい、と言われたらしいです。オペラは音楽の究極の形です。ピアニストはどうしてもピアノのことばかりに目が行きがちですが、オペラや交響楽などから、もっと広く学べるのです。さあ、あなたも!練習ばかりしてないで、オペラを勉強しよう!!!

さあ、あしたからボリス・ゴドゥノフを観に行きましょう(・・・なぜボリス?)

He always claimed that, unlike most of the world’s great pianists, he was never a child prodigy. Liszt, Josef Hofmann, Leopold Godowsky, Ferruccio Busoni and many other of the superpianists were playing at the age of 4, and their styles, in effect, had been fully formed by the time they were 15. At that age they also were veterans of the concert stage. Some sources say Horowitz started at the age of 3. But he once told this writer that he started late, at 5. He conceded that by 10 he thought he ”had some talent,” and that he was a ”not so bad” sight-reader. (From Horowitz, ”not so bad” always meant mildly stupendous.) He never practiced very much. Instead he read through the piano literature and operatic scores.

ホロヴィッツはいつも、世界中の偉大なピアニストは異なり「自分は神童ではなかった」と言い続けた。リスト、ヨーゼフ・ホフマン、レオポルド・ゴドフスキー、フルッチョ・ブゾーニをはじめとするスーパーピアニストたちは4歳から彼ら自身のスタイルで演奏しはじめ、15歳ですでに自分自身のスタイルを確立していた。そしてその頃にはすでにベテランと呼ばれる域に達していた。ある情報によると、ホロヴィッツは3歳で演奏し始めたという。しかしホロヴィッツ自身は、後になって5歳からだと言った。自分で認めたところによると、10歳の時には「いくらか才能がある」と思い、所見の能力も「そんなに悪くない」と思っていたそうだ(ホロヴィッツが「悪くない」という場合、本当はいつも「とてつもない」という言葉があてはまった)。ホロヴィッツが長時間練習することは決してなかった。そのかわり、ピアノに関する文学作品を読んだり、オペラのスコア(譜面)を読んだりしていた。