ピエール・ブーレーズの死、バレンボイムの追悼文・全(翻訳)

ブーレーズが死にました。

クラシック音楽ファンなら、そうでなくても、アートに関わるひとたちなら皆、思うところがあるでしょう。ひとしきり思いを巡らされたに違いありません。

私にとってブーレーズは、高校生、大学生の頃聴きまくって、ついに理解出来なかった存在でした。ピアノに限定するなら、たとえばポリーニの、名盤とされたドイツ・グラモフォンのCDは何回も聴きましたが、全く歯が立たなかった。著作の訳本も何冊も頑張って読みましたが、うーん?ハテナハテナ?と思ったのを記憶しています。

そもそも哲学とか宗教とか社会とかそういうのに関心が持てないちゃらんぽらんな私なので判らないのは当然なのかなとも思いましたし「現代音楽に楽しみをもとめてはいけない」などの発言もあまり共感はできなかったんですが、前衛を一生懸命やっていた頃のブーレーズは、ポーズとしてそういう事を言う必要があったのかも、となんとなくぼんやり理解しています。ピエール、90年間お疲れ!!(上から目線ですいません)

バレンボイムがFACEBOOKページで追悼文を寄せていますので全文訳してみました。親しくつきあったトップアーティスト同士です。ブーレーズからの一方通行では無く、お互いにインスピレーションを与えあったのではないかと思います。

個人的に急いで訳しただけで、誤りもあるかも知れませんがご容赦下さい。指摘があれば適宜修正します。

バレンボイムの公式FACEBOOKページ
https://www.facebook.com/danielbarenboim/

以下の文章は正確にはこのリンクにあります。

“Today, the music world has lost one of its most significant composers and conductors. Personally, I have a lost a great colleague, a deeply admired creative mind and a close friend. Pierre Boulez and I first met in Berlin in 1964 and there have been few fellow musicians with whom I have developed such a close and important relationship in the 52 years that followed – even though we always stuck to the formal “vous” when speaking to each other, a rarity in our rather informal world, but from my side, certainly, an expression of my deepest respect and admiration.

“Creation exists only in the unforeseen made necessary”, Pierre Boulez once wrote. With this belief as his paradigm, Pierre Boulez has radically changed music itself as well as its reception in society. He always knew exactly when he had to be radical because it was a necessary requirement for music and society to develop. He was never dogmatic, however, but always retained his ability to develop himself further. His development was based on a deep knowledge of and respect for the past. A true man of the future must know the past, and for me, Pierre Boulez will always remain an exemplary man of the future.

Pierre Boulez has achieved an ideal paradox: he felt with his head and thought with his heart. We are privileged to experience this through his music. For this, and so much more, I will always be grateful.”

Daniel Barenboim, 6 January 2016

今日、音楽界は、世界で最も影響力の大きい作曲家そして指揮者を失った。個人的には、偉大な同僚、深く尊敬され、個人的に近しい友人を失った。ピエール・ブーレーズに初めて会ったのはベルリン、1964年のことで、以来52年が経過した。これほど親しく、重要な関係を築き上げて行くことの出来た音楽家はほとんどいない。お互い常に「vous」(フランス語の敬称「あなた」)と呼び合ったが、これは我々のようなややフォーマルではない世界では稀なことなのだが、しかし私からすれば、深い尊敬の念と称賛の意を込めてのことだった。

“Creation exists only in the unforeseen made necessary”(「創造という言葉が存在するのは不慮のなにかが必然となったときだけである」※この文章意味が違うかも知れません。間違っていたら指摘して下さい)ピエール・ブーレーズはそうかつて書いた。この信念を自身の枠組みとし、ピエール・ブーレーズは音楽とそれを受容する社会を急進的に変えて行った。いつ急進的にふるまうべきかを正確に知っていて、音楽や社会が絶対に必要とされる時にだけふるまった。独断的になることはなく、常に自分自身の能力をさらに先へ推し進める気持ちを持ち続けた。ブーレーズの成長は常に過去への尊敬の念と深い知識に基づいていた。未来を作る真の人物であるためには過去を知っていなければならず、私にとって、ピエール・ブーレーズはいつもそのような人物の模範像だった。

ピエール・ブーレーズは究極の逆説、パラドックスを成し遂げた:頭で感じ、心で考えたのである。我々は彼の音楽を通じてそれを体験できる。このこと、またこれ以外の様々のことにもより、私は常に感謝しつづけるであろう。

ダニエル・バレンボイム、2016年1月6日