アシュケナージと美しい旋律、レガート。

アシュケナージの演奏は、いわゆる音楽大学などでお手本とされるような演奏と言われていました。私が学生だった頃は(遠い目)。今でもそうなのでしょうか。

アシュケナージがデッカに残した数々の録音も、学生の頃は漁るようにして聴きました。音の絵、ショパンエチュード集、展覧会の絵、皇帝、ラフマニノフやモーツァルトの協奏曲とか、もう次々におこづかいを投入して聴いたものです。

演奏スタイルは、過激すぎず、薄すぎず、王道を行く感じ。自然に楽譜をそのまま美しくきれいに仕上げてきている。そんなスタイルです。音も、打鍵が強くてまるっとしているというか、プチプチと特徴的でした。

あくが強過ぎる演奏だと教師からは敬遠されます。真似しちゃだめ、と言われたりします。アファナシェフ、ムストネン、ポゴレリチ、プレトニョフ。有名なあたりではこういう人たちの演奏は、真似しちゃだめと言われる部類に属する。

アシュケナージについてはそんなことはない。むしろ積極的に聴いて参考にするようにと言われるピアニストです。

しかし!アシュケナージの実演に触れた方はどれぐらいおられますか。近くでその演奏をじっくり観た、と言う方はどれぐらいおられますか。

大変面白いことに、アシュケナージは指のレガートを使いません。えっ?

ピアノを習った方はよよくご存知のとおり、ピアノは鍵盤楽器ですが、打楽器です。鍵盤を押さえるとハンマーがゴイン!と弦を叩く。それで音が出るんです。本当はちょっぴり複雑な作りになっていますが、鍵盤押さえる→ハンマーが弦叩く、が基本です。

最初にゴン!と叩いたらそのままスーッと音が小さく消えていくんですよ。なので歌や管楽器、弦楽器のように音を持続させることが苦手。

それなのにメロディーを演奏するわけですから、どうやってきれいに音をつないでいくか、がピアノの課題です。

うまく繋げて聞こえさせるためには、少なくとも次の音が出るまで前の音を押し下げたままにしておく必要がある。場合によっては、前の音が次の音に被るぐらいでもいい。

そう、「指を上げる」際にも注意が必要なわけです。とりわけ、きれいなメロディーを演奏するときはねっとりとした指の動きが効果的?とされる。

しかし、アシュケナージの演奏をご覧いただければわかるのですが・・・ってうーん、これという分かりやすい動画があまりありませんでしたが、これは「皇帝」の動画です。2楽章が20分ぐらいから始まりますからそこまで飛ばして見て下さい。

レガートなのに指の動きが軽くてパキパキしています。思わず引いてしまうほど。これは・・・うまく出来たチャーハンだな。パキパキの王子、ポゴレリチもこういう箇所ではねっとりと指を動かすと思いますよ。

不思議ですよね。こんな動きでどうやってきれいなレガートが表現出来るのか。アシュケナージの怪、とでも呼びましょうか。

少なくとも演奏の仕方に関して言えば、アシュケナージは教科書通りではありません。むしろ、真似しちゃだめ、と言われる方に属すると思っています。いやいや、不思議だ。