指揮者マリス・ヤンソンスの失言

近年、発言にはいろいろと注意が必要な時代になっています。深く考えず、軽い気持ちで言った(書いた)言葉が炎上する可能性があるからです。あとから「軽い気持ちで言ってしまった」などと釈明しても、本心ではそう思っているからそんな発言が出る!という叩かれ方もします。いやはやなかなか難しい。

このブログも、わりと言いたいことを言っているようで、それなりに気は遣っているつもりですなのですが、不愉快な気持ちになっている人もゼロではないと思うんですよね。ごめんなさい、とお詫びしておきます。

ラトヴィアを代表する指揮者マリス・ヤンソンス(1943- )がこのたび叩かれているのは、インタビューで女性指揮者に対して問われて「not my cup of tea」と言ったという発言。

Mariss Jansons: ‘Women on the podium are not my cup of tea’
http://www.telegraph.co.uk/music/concerts/mariss-jansons-women-podium-arenot-cup-tea/

カップオブティーって、わかりますか。意味が。

英語は不得意ではない方ですが、こういうイディオム(慣用句)って推測ではわからない。単に憶えるしかないので、知らないか知っているか、の二択になります。私は知りませんでした。しかし文面から、どうやらあまりポジティブな事を言っているようではないな、という事だけはわかりました。

日本語にも、手を焼く、大手を振って、手を切る、手玉に取る・・・手に関係するだけでも慣用句っていっぱいだってありますよね。そう。そんな感じで、英語にも慣用句はたくさん。

こういう時はどうする。googleに聞く。それが最速。出てきました。「私の好みではない」という意味らしい。

上の発言は性差別主義者として炎上。ヤンソンスはすぐに謝罪文を出しました。こういう時、迅速に謝れるかどうかも重要ですが、もともと人徳のある人かどうかでその後も変わりますね。失言は失言だけれど、ヤンソンスだから温かい目で、というのが今回の騒動の流れというか、そこまで大炎上することなく収束に向かっているのでは。

自身も炎上商法で売っている節のあるノーマン・レブレヒトも珍しくヤンソンスを擁護している。

記者の悪意ある質問だ。ヤンソンスにはもっと他に聞くべき質問があるだろうに。ヤンソンスはソ連時代と西欧の厳しいコマーシャリズムを耐え抜いてきた汚れのない人であり、かつ英語はヤンソンスにとってラトヴィア後、ロシア語、ドイツ語に次ぐ4カ国語目だから上手くなくてもしょうがない。など。

http://slippedisc.com/2017/11/mariss-jansons-is-forced-to-apologise-for-cup-of-tea-remark/

ヤンソンスが、首席指揮者を務めるバイエルン放送響を通じてすぐに出した謝罪文は以下の通り。

I come from a generation in which the conducting profession was almost exclusively reserved to men. Even today, many more men than women pursue conducting professionally. But it was undiplomatic, unnecessary and counterproductive for me to point out that I’m not yet accustomed to seeing women on the conducting platform. Every one of my female colleagues and every young woman wishing to become a conductor can be assured of my support, for we all work in pursuit of a common goal: to excite people for the art form we love so dearly – music.”

私は、指揮者という職業はほぼ男性のみに認められた(古い)時代から来た人間です。そして今もなお、女性よりも遙かに多くの男性がこの職業に就いている。しかしながら、あれは(it=私の発言は)あやまったもの(undiplomatic=外交的手腕のない。気の利かない。)で、不必要で、女性の指揮者をいまだあまり見ない、という事を指摘する表現として逆効果の発言でした。だれであれ女性の指揮者たち、そして指揮者になりたいと望む女性を私はサポートしたいと思っています。なぜなら私たちは、音楽という、私たちが愛してやまない芸術において人々に喜んでもらいたいと願っているからです。

https://www.br-so.com/statement-by-mariss-jansons/

なぜバイエルン放送響を通じて?それはオーケストラの評価、チケット売上げ、スポンサー獲得、予算獲得などに関わる大問題だからです。