1962年、オーマンディからショスタコーヴィチへ送られた手紙

1962年というと、冷戦真っ只中。ショスタコーヴィチも生きるや死ぬやというかなり危うい立場ながらもなんとか生き抜いてきていました。そんな中、アメリカの指揮者のユージン・オーマンディからドミトリー・ショスタコーヴィチに宛てて送られた手紙が公開されているのを知りました。そしてそれを読んだ私は驚愕しました。

その手紙の内容というのが、ショスタコーヴィチの第4番の交響曲のアメリカ初演にあたって、オーマンディーが作曲者に質問をしている、というものなのですが、その内容が結構すごいんだ。そのお手紙を、お読みください。

以下が荒っぽい訳:

ご存知の通り、私達のオーケストラはあなたの第4番の交響曲(素晴らしい作品だと感じています)のアメリカにおける初めての公演を行います。いま私はスコアを勉強しているのですが、あなたのメトロノーム記号が、一部遅すぎるのではないかと感じています。この手紙をお読みいただいたらすぐに、正しい速度に関してお返事をいただけませんでしょうか?私はこの演奏をできるだけオーセンティックなテンポにしたいと考えています。

フィラデルフィア管弦楽団および私からのあたたかい挨拶とともに。

なんということでしょうか。

私はこの手紙を読んで仰天しました。おいおい、遅いぎるんじゃねえの、ってショスタコに喧嘩売ってんのかよ、と思いました。だってそうじゃありません?わざわざちゃんとテンポが楽譜に書いてあるのにもかかわらず、遅すぎるんじゃね?って書いて送るとか、すぐ返事をよこせとか、作曲者を舐めてんのか侮辱してんのんか、と私は思った。指揮者っていうのはこうも傲慢になれるのか、と私は思った。

・・・が、どうもそうではないらしい、という意見がありまして・・・・。上のFaceoookページのコメント欄を見ますと、いや、実はこれはショスタコーヴィチを応援することになる手紙であって、ショスタコーヴィチのことを考えていますよ、という遠回しな表現、サポートなのです、と書いている人がいまして、なるほどと思いました。

あまり直接的なことを書いて本人に迷惑を及ぼしてもいけないし、うかつな発言によって微妙なバランスを保っているアメリカとソ連の関係が崩れてもいけない、ということでしょうか。だとすると素晴らしいことだと思うのですが、仮にそうだったとして、でも、なんかこの書き方はとげがあるようで、思わずどきどきしてしまうのは、私だけではないでしょう。

果たしてオーマンディの真意やいかに。皆様はいかがお考えになりますでしょうか。歴史や政治というものは本当に難しいものですね。我々のような素人がどうこう言うものではないのでしょうけれど。