譜めくり人の悲劇:「ページを、めくれよ」 by ユジャ・ワン

繰り返し何度でも書きたいと思うんですが、譜めくりという仕事はかなり消耗する仕事です。つらいです。

なんでつらいかというと、第一に仕事に対して報いがないからです。

いや、ちゃんと些少ですが謝礼はもらえますよ、プロの公演なら。お金の問題ではなく、仕事の重要性に対して報いがあまりない、ということです。

私も軽い気持ちでチーッス!譜めくりに来ましたー!と世界の巨匠(男性)の所に挨拶にいったら、君誰?譜めくりは若くて綺麗な女性じゃないと。と言われてへこんだ記憶があります。

いやそんなことはどうでもよいのです。

もっとはっきり言いましょう。うまくめくれればピアニストは感謝してくれるかもしれませんが、基本、譜めくりはうまくめくって当たり前だと思われています。へたでなくても、ピアニストのめくって欲しいタイミングにうまく合わせられなかったりすると、後から恨まれます。これはつらい。

でも、待って欲しい。あなたは年中その楽譜を見て弾いているかもしれないが、私は生まれて初めてその楽譜を見るんですよ。釣り堀にしか行ったことのない人間が、いきなりベーリング海のカニ漁に行け!と言われるのと同じことですよ。そんな荒海で、カニなんか釣れるかよ!!俺、マスぐらいしか釣ったことないよ。

・・・ともかくそれぐらいの厳しさが、譜めくりにはある。だが、誰も、そう誰も、ピアニストも、主催者も、そして聴衆さえも理解してくれない!!

「楽譜は保険のためにおいているだけ、だからめくりがちょっとはやかったり遅かったりしても平気だから」と言ってくれる人ならいいんですよ。でもそうじゃない人もいっぱいいますし、そもそもそう言ってた人が後から「いやあそこが早すぎた」とか言ってくるんですよね(もちろんミスはしていない)。

そんな夜は・・・泣きたい。くやしいから一人で酒でも、飲もうぜ。ひとり 酒場で 飲む酒は 別れ涙の 味がする。(美空ひばり)

気をとりなおしますが、このユジャ・ワンの譜めくりさんもひどい目にあいましたね。同情致します。まあ、そういっても大してひどい目にあってないんだろう、と思われるかもしれませんが、映像を見る前に一度深呼吸をしてから再生ボタンを押すことをおすすめいたします。

Yuja Wang VS Page Turner

ただ、この映像は目立つところだけを切り取って(恐らくおもしろがって)アップロードされていますから、これだけを見てユジャひどーい、とはいえません。ほら、そのう、ほんとうに譜めくりの人がダメダメだった可能性もありますし。

ともかく、譜めくりのつらさをもっと世の中の人たちに判って欲しいですね。

みなさんも終演後に譜めくりの人に出会ったら、めちゃくちゃ労をねぎらって上げて下さい。手を叩いて喜んでくれるに違いありませんから。

少しでも譜めくりという職に就きたい人の数がふえますように・・・・(※)。

(※譜めくりという職業は存在しない)

元ネタ:Watch Yuja Wang deliver an almighty death stare to her page turner
http://www.classicfm.com/artists/yuja-wang/news/page-turner/