ファツィオリの戦い、後発組の苦悩

スタインウェイというピアノは巨大なブランドです。もちろん素晴らしい楽器です。スタインウェイも後発だったが、やがて世界を制するに至った。それは楽器の素晴らしい質があってのことですが、優れたマーケティングによるものでもあった、としたら?

マーケティングの結果見事に、世界中のコンサートホールに常備される最高の楽器となったのだ。素晴らしい。

スタインウェイが寡占しているこの状態はよくないと考える人もいます。多様性が大事だというわけだ。その通り。多様な楽器があって、お互いに特徴を出しながら切磋琢磨していく、というのは大変重要です。

現代のコンサート界について言えば、多様性は確立されているとはいえません。スタインウェイがほぼ唯一にして絶対の存在、と言っても言い過ぎではない。そこにベーゼンドルファーが、ヤマハが、カワイが果敢に挑み、ファツィオリもいわば最後発として挑んでいる。そしてファツィオリは高品質な楽器として世界のコンサートステージにおいて存在感を増しつつある。

日本のファツィオリのブログに昨日掲載された創業者パオロ・ファツィオリのインタビューはめちゃくちゃ興味深い。ひたすらに興味深いのですべての人におすすめ。こんなに面白い記録があっていいのか。ピアノ群雄割拠。

https://fazioli.co.jp/diary/2018/01/brandeinsピアノの闘い.html

スタインウェイの嫌がらせについて言及されているが、ひどいな、と思う一方で、かつてはそういう手法も可能だったし、おそらくこういう手法も最大限利用して成功してきたスタインウェイのやり方については、なるほどな、強いな、と思うのです。しかし今後スタインウェイにかぎらず、こういったやり方は難しくなっていくでしょう。

そして過去のスタインウェイのやり方についてme tooのように告発して叩くのは容易だが、それはあまり意味がない。建設的ではないのです。過去を見つめて未来につなげればいいのです。お互いに。そう、パオロ・ファツィオリの最後のコメントがあまりにもクールに決まっているので呼んで下さい。これこそがプロフェッショナルというものでしょう。パオロ・ファツィオリに対する好感度が上がったぜ。

今年5月に開催された重要なテルアビブのアルトゥール・ルービンシュタイン国際ピアノマスターコンクールでは、30人の参加者のうち10人がファツィオリを選び、1位と2位をさらった。パオロ・ファツィオリに対して「この瞬間に満足していると感じましたか?」と問うと「いいえ、なぜ私が満足すべきでしょうか?私はスタインウェイを大いに尊敬しています」と返ってきた。

格好良すぎる。惚れたわ。

・・・しかし・・・である。

しかし、彼はひと言、付け加えずにはいられなかった。「ピアニストに自分の楽器だけを弾くように頼むことは絶対にできません。アーティストには選択の自由が必要です」。

この「ピアニストに自分の楽器だけを弾くように頼むことは絶対にできません。」という最後のこの一言は「ひと言付け加えずにはいられなかった」のではなく、自分の楽器についても同様、という意味で言ったのではないかと思うのですがどうでしょうね。編集者の悪意を感じる、ってのは考え過ぎですかね。