ピアニスト薗田奈緒子インタビュー【前編】

-こんにちは。このたびはお忙しいところお引き受けいただきありがとうございます。

いえいえ!

-ではいきなりですが、ずばりコンクール伴奏を一言で言うとなんですか?

ずばり「毎日胃痛!」・・でもそれでもなぜ毎回ついて行っているのかと聞かれるならば、、、特別な場に居合わせる経験ができる場所だからです。

-なるほど。今回のエリザベート国際コンクールを振り返ってみて、一番大変だったなと思うのはどんなことですか?

今回は二次予選からしかこられないピアニストがいたこともあり、一次予選では9人担当しました。その中から6人が二次へ進みまして、二次予選では4人担当しました。

コンクールはコンサートと違って、始まらないと演奏順が分からないんですよ。そして担当するチェリストが多ければ多いほど時間の拘束も増えるし、その分他のチェリストとのリハーサルのスケジュールが組みにくくなります。

つまりコンクール期間中は一日中ピアノを弾き続けることになります。リハーサルをしつつラウンドごとに集中力を合わせるというのは、担当する人数が多くなればなるほど大変になりますね。(左写真:エリザベート国際で共演したサンティアゴ・カノン・バレンシアと)

-なるほど。

たとえば今回は6日間ある二次予選のうちの3日間で演奏しましたが3日間連続で出演しました。このコンクールは演奏時間帯が遅く、毎日15時から18時、20時から23時15分までだったのですが、私の1日目は16:30からと21:30、2日目は17:30、3日目は22:15からで、遅い時間に集中力を合わせるのがまず大変でした。起床時間をずらしたり、リハーサルも本番の余力が残るギリギリのテンションでこなしたりしました。相手のチェリストにとっては最後のリハーサルになりますし、リハーサルだからとあまり適当には弾けないのです。同じ日に2回出演する場合は、2回集中力を合わせなくてはいけないのでとても大変でした。

(上写真:一次予選前、ホールでのサウンドチェック。ピース。)

あと、やはり何が大変って、準備期間が一番大変。チェロはヴァイオリンよりもレパートリーが少ないはずなんですが、何でかな・・・みんな重ならない(笑)。私のコンクールのレパートリーの数はどのチェリストよりも多かったです(笑)。

-それはつらい。

準備期間というのは曲を仕上げるまでの過程がひととおりあるのに加えて精神的なアップダウンが激しい時期でもあります。曲がなかなかまとまらなかったり、コンクールへ参加することへの不安があったりなど、チェリストの「ダウン」の時期をどうサポートするかも、コンクールについていくピアニストにとって重要な役割だと私は思っています。担当するチェリストの分だけアップダウンの種類が増える、そして私も人間だからアップダウンがある・・・。でも私のアップダウンは彼らには出さないように気をつけています。だからコンクールの期間全てが終わった後はだいたい抜け殻のようになります(笑)。

そうそう、あと、今回大変だったこと、それは二次予選の課題新曲がなんとピアノつきだったこと。コンクールに関わった全てのピアニスト、みんな必死に譜読みして必死に弾きました。コンクール本選の新曲が細川俊夫さんの素晴らしい曲だったのに対して二次の曲は何だか、いかにもコンクールのために書かれた曲という感じが滲み出ているような気がして、個人的にあまり共感出来ない曲だったので余計に大変でした。

-いや、なんかもう、超たいへんですね・・・。本番前の事について伺いたいと思います。コンテスタントは舞台袖で死ぬほど緊張していると思うんですが、緊張をほぐすために何かしてあげたりしますか。自分も緊張しますか。

まず当日会った瞬間に相手がどういう状態なのか見ます。もちろんみんな緊張していますが、それぞれ微妙に違った緊張感を持っています。例えばこの人は最後の一押しが必要だとか、この人は本番まで完全に一人の空間でいたそうだとか。相手から「ナオコ、お願い部屋にいて!」と言われることもあります。そういう違いに対応するようには心がけています。

もちろん私も大変緊張します。一次予選は9人チェリストがいたので9回緊張しました。ただ、ものすごく緊張しても舞台袖や舞台上に相手がいるというのは大きな助けになります。コンクールという場であっても特に舞台上では私は彼らから何度も助けられました。コンクール独特の緊張感がお互いにあるのですが、それが重なった時に音楽的に今までになかった間が出来たり、ふと最高の4小節が生まれたり、そんな瞬間にコンクールの準備期間が大変だったことや、期間中緊張して胃痛だったことが水に流されて尊い部分だけが残ることになります。

―それはすばらしい。それにしても、人数が多いのは大変ですよね。薗田さんは何人が限界だと思いますか?

うーん、今回もはや限界だったかも。何人くらいがベストなんでしょうねぇ。よく分かりません。でも一人だけっていうのも逆に全てが凝縮されてそれはそれで大変かも。

―服装には気を遣いますか。YESの場合どんなところに気を遣いますか。

シンプルなシルエットが良い弾きやすい服。でもちょっとはお洒落したいですよね。私はいつもお気に入りのピアスをつけています。髪を振り乱して弾いているようで、結局誰からも見えませんが・・・。髪の毛がうまくまとまらないのが悩みです。後は楽譜で荷物がかさばるので、軽くてシワになりにくい服を持っていくのが鉄則。

(上写真:服装にはどんなことに気を遣いますか?)

-わかりました。これからはピアスに注目します。読者のみなさんも薗田さんのピアス、見てあげてください!!そのほか舞台上で心がけていることはなんですか。なければないでもいいんですが。

最近はどのコンクールに行ってもインターネットでライブ中継がありますよね。とにかく転ばないように気をつけてます。靴裏には滑り止めをつけています(笑)。いつかミュンヘン国際コンクールに付いて行った時に一番くじに当たった子がいましたが、その時演奏が終わって舞台袖に戻るとき、私舞台上でつんのめったんです。そのままオットットーと袖に引っ込みました。あの時ライブ中継されてなくて本当によかった~(笑)。ちなみに私が滑ったおかげでそのチェリストは次のラウンドに進みましたがね!

-それはよかった。・・・よかったのか?もし今回薗田さんの伴奏したコンテストが優勝していたらどんな気分だったでしょう。あ、チャイコフスキー国際では薗田さんがピアノを担当したチェリスト、アンドレイ・イオニーツァが優勝しましたね。どんな気分だったのでしょう。

それはもう感激ひとしおです。チャイコフスキーの時はその一年前からアンドレイのコンクールにミュンヘン国際、フォイヤーマンと付いていっていずれも二位。チャイコフスキーコンクールについては、コンクール続きでもう受けたくないとアンドレイが言っていて、受けると決めた後も重圧のなか自分と戦っている姿をいつも横目で見てきましたから、マイスキーが彼の名前を呼んだとき本当に嬉しかったです!

-さぞや素晴らしい体験だったのでしょうね。最近のコンクールではネット中継も増えていますが、それによるストレスはありますか。

あります。

-やっぱり。

エリザベートは本選だけでしたが、チャイコフスキーの時は予選でも舞台裏でカメラが回っていることがありました。観ている人にとってはエキサイトな一瞬ですが、私達にとってはあまり心地よいものではありませんよね。私なんかは舞台に上がる前にお腹に空気を入れようとよくアクビをするので、本当に困ります。

-なるほど、舞台上よりも舞台裏が困ると。そう、観ている方は野次馬的好奇心を満たされると思いますが、参加者は落ち着かない。その気持ち、よく分かるような気がします。

アンドレイ(・イオニーツァ)とマリインスキー劇場でリサイタルをした時のことなんですが、この公演はチャイコフスキーコンクールの優勝コンサートということでネット中継が入っていたんです。

それで、一曲目が終わって袖に戻ってきた直後、彼が「松脂つけなきゃ!」と突然チェロを置いて控え室へ走って行ったんですよ。それをインターネットで見ていた私の家族は「アンドレイ君はお手洗いに行きたかったの?」と思っていたそうです。きっとみんなそう思ってたでしょう(笑)。主催者も、何が問題があったのか!とドドドと駆け込んできて。結局私一人が袖にいて、でもカメラはずっと回っているものだから、とても気まずかったです。

-それは気まずい。しかしカメラに向かって薗田さんが「松脂を・・・ああ、中継をご覧の全世界の人たちのために英語で言うけどロジンが」などと言うのもちょっと間抜けかもしれませんしね。違うコンテスタントが同じ曲を演奏する場合どうやってピアニストは弾き分けるのですか。違う楽譜を使いますか。

同じ曲でも違ったテンポ感や違うフレージングを一緒に体験できるのはそれが自然な息遣いからくるものであれば、私もそこから別なインスピレーションが湧いてくるので、面白くてとても楽しいです。室内楽の醍醐味はまさにそこです!

コンクールでもソナタはソナタであって、ピアノは伴奏ではないのだから。基本的なテンポはこの人は早め、遅めと把握はしていますが、楽譜に書き込んだり、ましてや楽譜を替えたりなんて、そんな荷物の重くなるようなことはしません(笑)。長い旅は軽い荷物が一番!

それに、たとえここはこうしようねと決めていても、演奏は毎回ミリ単位で変わるものです。コンクールに限らず舞台上ではその時の音楽の流れに乗って、その時の微妙な変化に自分も任せるようにしています。コンクールはコンサートと違う独特の緊張感があるので、そういう雰囲気に呑まれて耳が塞がることがないようにとだけ気をつけています。

後半に続く

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