暗すぎる?クラシック音楽の行く末はどうなる

今日は少しピアノの話とは異なりますが。

英国出身の著名指揮者サー・サイモン・ラトル(ベルリン・フィルの音楽監督、2002年から2018年まで)が、2017年からロンドン交響楽団の音楽監督を務めることが決まっているのは音楽ファンの方でしたらご存知でしょう。

音楽監督を引き受ける際に注文がラトル側からあったこともご存知かと思います。新しい、ちゃんとしたコンサートホールを作り、それをロンドン交響楽団の本拠地とすること、というものです(ロンドンの大きなホールはどこもクラシック音楽を聴くには音響が悪すぎるので有名)。そしてそれに対してロンドン市長がOKを出したと。正確には少し違っているかもしれませんが、まあ大体こういう内容だそうです。

しかし問題は山積みでした。まずロンドンには土地がない。コンサートホールには、野球場ほど大きくはないにしても、それなりの土地が必要。なのでどこに建てるのかで議論が噴出。

場所の問題に付随して、死ぬほど高いと言われるロンドンの土地代も立ちはだかっていました。そんなこんなで新しいホールには278万ポンド、今日のレートでだいたい400億円ぐらい、という恐ろしい金額が予算として計算されていたと思いますが、ついに諦めることになり、先月頭に発表がありました。だからと言ってラトルは音楽監督就任を辞退していませんが、任期が短くなるのでは、とは憶測されています。

先日あるイギリスのピアニストに会ったので、あのホール計画について尋ねた所、いやほんとに色んな議論があったんだよね、というのです。まあそうでしょう。公式には「既にロンドンにはロイヤル・アルバート・ホールとかバービカン・センターなど世界に誇る素晴らしいホールがある」から作らない、というのも理由になっていましたしね。

最近ヨーロッパで建設されたホールはどれも建築にあたって予想コストと実際にかかったコストが大幅に乖離しているというのも問題です。最近一番有名なのがハンブルクのエルプフィル(上の画像がエルプフィル)ですね。ここの建築予算は1億ユーロ(122億円)ぐらいの予定だったのが最終的になんと8億弱(975億円)になってます。なんでそんな違うのか。いくらなんでもひどい。

でも、一番ハッととさせられたのが、先のピアニストが語った以下の内容。

「新しいホールを作っても、それはこれからの若者たちのためのものになるのか。若者をコンサートホールに呼び込むことは非常に難しい。新しいホールが出来たところで、集まるのはグレイヘアー(白髪=つまり老人のこと)か、もしくは誰も来なくて空っぽか、いずれかである。そんな場所にものすごい額のお金を使うことに意味があるのか?」

世界的に著名なにクラシックの中心地の一つロンドンでも、クラシック音楽を聴く人の数が減ってきており、高齢化が進んでいるのは、愛好家の一人として残念に思います。ちなみにそのピアニストは次のようにも言っていました。

「愛好家も、こう言っちゃなんだけど悪いんだよね。大体チャイコフスキーのピアノ協奏曲を聴いていて第一楽章が終わった後に拍手しちゃいけないなんて誰が決めたの?20分じっと集中した後には少し緊張からのリリースの時間があってもいいんじゃないのかな。楽章間に拍手しただけでじろって睨んだり大げさにため息をつくような人がいるから、ビギナーたちを遠ざけるんだよね。派手に終わるのに拍手したほうが絶対にいいと思うけど。あと、フライング気味のブラボーに対して厳しいのもどうかと思うよね。あまりにひどいブラボーもどうかと思うけど」

マニアの行き過ぎた統制は世界共通なのでした。枝雀師匠の言うところの「緊張の緩和」、必要ですね。