代役からの → 一流ピアニストへの階段を登ることについて

ヨーロッパでは「代役」というのはしょっちゅう、でもないですが、ちょいちょい、あることです。

「ちょっとした病気ぐらいなら我慢して働け働け」という日本のスポ根文化は、それでも緩やかに変化していると思いますが、あまり変わっておりませんので、クラシック音楽コンサートにおける「代役」問題も、この日本の風土とはあまり合わない。

しかしヨーロッパの演奏家はわりと簡単にキャンセルします(我々の目からすると比較的、ということですが)。そうすると代役が出て来ます。日本の場合、特にリサイタルの場合は代役を立てるよりも中止、全払い戻しを選びますかね、だいたい。

室内楽やオーケストラのソリストの場合はもちろん、日本のコンサートでも代役が出て来ますが、ヨーロッパから長時間のフライトで呼び寄せることになるので、代役を探すのは難航しますね。

さらに言うと、日本の場合は、代役がもともとの演奏家よりも若かったり知名度が低かったりすると、お客さんから歓迎されない傾向があるので、代役は同世代か、もしくはさらに上の世代の「知名度がもとの人と同じぐらいか、それより高い人」を選ぶ傾向にあるのではないでしょうか。

しかしヨーロッパの場合ですと、こういう時に出てくる演奏家は、若くて野心があって、実力もあって、という場合が多いです。実力ある若手にチャンスを与えるのです。なので、言葉は悪いが「当たり」のケースも多い。

代役が「当たり」ですとお客さんも喜びますし、代役で来た演奏家の評価も通常公演よりも大きく高まるので、将来の大きな契約につながることも多い。絶好のステップアップのチャンスなわけです。

なので、代役を送り込むのは音楽事務所だったり主催する団体の事務局だったり指揮者だったりするんだと思うんですが、「リリーフに若手を送り出す野球の監督」のような気分だと思うんですよ。

お客さんもどうなることかとはらはらして見守る。見事に三者三球三振!!!という事になれば全員小躍りして喜ぶでしょう。いやいや、これこそ代役公演の醍醐味ですよ。

今週末の3月5日、6日ですが、ウィーン交響楽団の定期演奏会(ウィーン楽友協会)でジャン=イヴ・ティボーデがソリストになっていたそうですが、キャンセルしたそうです。その代役に出てくるのがベルトラン・シャマユですと楽友協会が発表していました。

https://www.musikverein.at/aktuelles.php?idx=996

キャンセル理由は「病気」とだけ。

シャマユは同じフランス人で、ティボーデよりもずっと若いですが、いま登り坂ですよね。このチャンスでも結果をだして、さらに有名になっていく可能性が十分あります。チケットを持っている人はわくわくしていいと思います(このブログを読んでる人の中にはいないか・・・・)。

ちなみティボーデとシャマユはロンドンのハリソン・パロットという同じ大手の事務所に所属しているので、今回の代役はハリソン・パロットの推薦によるものではないかと推測できます。